東京都立産業技術研究センターは9月9日、慶応大学およびフォトジェン(東京都千代田区)と共同で、太陽光と海水から水素を生成する非貴金属系の光触媒を開発したと発表した。太陽光への応答や水素を生成する機能を大きく改善する手法を開発し、さらに極微量のエタノールを添加することで海水を使った分解性能の向上につながることを見出した。
光触媒で海水を分解する際、副生成される次亜塩素酸などの腐食性物質による触媒劣化などが課題となっている。また、安定で安価な光触媒材料として酸化チタンがセルフクリーニング(汚物分解による自己洗浄効果)分野で注目されているが、紫外光下でしか機能せず水分解は不得手という欠点があった。
今回の研究では、酸素欠損酸化チタンを、エタノール溶媒中で直径0.3mm程度の微細ビーズを用いて最適条件で粉砕処理を行うと、粉砕に引き続き凝集が起こる。この作用を利用することで、高表面積を保持したまま還元種であるTi3+(3価のチタンイオン)を酸化チタン格子内に安定的に固定できることを見出した。この手法は、劣化しにくい非貴金属系の光触媒材料の開発へ適用可能という。
作成した酸化チタン触媒材料は、紫外-可視光を照射し始めて約20分後から水素生成が確認され、その後30分経つと水素生成の速度が安定した。水素生成速度は、元の酸化チタンの16倍まで向上した。また、可視光のみの照射では水素生成が観測されなかったが、紫外光と可視光の両方を照射すると、紫外光のみと比べて9倍まで水素生成速度が向上した。
さらに、極微量のエタノール(0.005 vol%)を含有した場合、光(紫外+可視)照射中に人工海水を添加すると、添加前の5倍の水素が安定して生成できることを見出した。微量のエタノールが塩素イオンの犠牲試薬としての採用をアシスト可能なことが分かりつつあるという。
今後は、今回見出した手法を用いてさらに活性を向上させるため、有効な反応場の増加や改質などを行い、実用的な耐久性も検討しながら、太陽光による海水分解を実用に近づけるための開発を継続していくという。